赤の女王

「性」の由来が「多様化の創造」にあること、何故多様化しなければならないか、 について、色々な考えが有ることを「草の絡み合った土手説」の紹介も合わせ、 説明して来ました。

    今、この点で一番有力と思われる説を最後に紹介します。
    只繰り返しますが、生物にとって「性」は一筋縄で行く問題では無いようです。ここでは単純に端折っての記述ですが、実際は厚い本が1冊書ける程に奥の深い問題だと言うことを弁解がてら強調しておきます。

■ 赤の女王仮説」―ウイルスへの対策

先ず、結論から言います。最後の結論です。
「何故、生物は常に多様化しなければならないか?
それは、パラサイト(寄生者)特に、ウイルスからの感染を防ぐ為」だと言うのです。
ウイルスは、生物と殆ど同時に出現しています。バクテリアにはバクテリア専門の ウイルスが存在します。

※ ウイルスを生物と見るかどうか、については意見が分かれます。
ウイルスは生きた細胞がないと増殖出来ないので、生きた細胞、つまり生物誕生後に出現したと考えられます。しかし又、我われ生物の基礎となっているDNAが出現する前に、RNAを基礎とした「生物」が存在した(RNAワールド)とも考えられています。
ウイルスと生物、非常に興味有る問題です。

■ 金庫と鍵穴

生物の細胞は、言わば蛋白質で出来た金庫のような物で、パラサイトと言えど簡単には進入できません。
しかし、パラサイトも細胞に入り込まなければ、自分が生きて行けない訳で、 なんとかこの蛋白質の防御機構を破ろうとします。つまり、金庫の鍵穴に合うカギを作り出して来る訳です。

一般に生物は、体が小さいほど、突然変異のスピードが速い、と言われています。その点でウイルスの変異スピードは速いのですが特にその中で、RNAを遺伝子に持つウイルスが有ります。
RNAは一本鎖の核酸で変異に対する修復機能を持ちません。その為特に突然変異のスピードが桁違いに速いのです。
あのエイズウイルスの 変異スピードは、人間の200万倍とも言われています。
人類が、チンパンジーなどとの共通祖先から、枝分かれしたのが、700万年前(最近中央アフリカ、チャドで発掘された人骨化石-トゥーマイと命名-が、約 700万年前のものと判定)と 言われていますから、人類の全歴史の変異を、エイズウイルスは、約3年余りで やってのけると言う事です。

この変化の早さが、エイズウイルスのワクチン開発を困難にしているひとつの原因です。
やっと、ウイルスの形に合わせてワクチンを作っても、その時はとっくに、ウイルスは 別な形になっているからです。ウイルスはこの変異の速さを利用して、細胞の鍵穴に合うように、自分自身を変えて行きます。

■ 無性生殖のジレンマ

さてここに、無性生殖で増える単細胞生物がいて、それにウイルスが取りついたとしますこの生物は無性生殖ですから、子孫は全て親と全く同じコピー、クローンです。
一旦、鍵穴をこじ開ける術をウイルスが見つければ、 生物がどんなに繁殖していても一網打尽、全滅です。
変異スピードと共に、ウイルスの増殖スピードも又、物凄いのです。

そこで、時々接合(前に説明しました)をして、自分自身を変えて行けば、それは生物にとって、蛋白質の錠前を変えると言う意味を持ちます。
その後、無性的に増えれば、つかの間で有っても、ウイルスからの感染の危険の無い 子孫を残す事が出来ます。

■ 多様化と繁殖の統一

最初、パラサイト対策としての「遺伝物質の混ぜ合わせ―多様化」と、「繁殖」は別の物だったのでしょう。
15億年位前に、この全く違った二つのことを統一した生物が出てきたのです。それが我々と同じ「有性生殖生物」の始まりだったのでしょう。

※ 遺伝物質の「ブレンド」

次にCGソフトである、「Illustrator」の機能を使って、上記の説明をして見ます。
実はこのサイトの親サイトは「Illustratorイライラ・ストレス解消委員会」と言うサイトで、コンピュータグラフィックスのアプリケーションソフトである、Illustratorの解説をやっています。

と言うことで、Illustratorを使って以下の説明をします。

次の操作をイメージして下さい。
或いは実際に行ってもらえば、なお結構です。

Illustratorのページ上で、楕円ツールを使い小さな円を描きます。
適当な塗りと線の設定をします。
その円オブジェクトを選択状態にしたまま、Alt(Macはoption)+ドラッグをすると、 同じ円オブジェクトのコピーが得られます。
その後、Ctrl(Macはcommand)+Dで、そのコピーを連続作成できます。

このようにして作成したオブジェクトは全てクローンです。
そのうち一つを選択し、「編集→選択→同一のペイント設定」をすると 全てが選択状態になります。
その状態でDeleteキーを押すと、いくら多くのオブジェクトが有っても 一瞬に全てが消去されます。

今度は、最初の円オブジェクトから少し離れた位置に、四角形ツールで適当な 四角形を描きます。
四角形にも塗りと線の設定をし、 円オブジェクトと四角形オブジェクトを同時選択します。
このオブジェクト間でブレンドを掛けます。

すると、円と四角形の間で、設定したステップ数だけの中間オブジェクトが得られます。
このブレンドオブジェクトは、最初の円、四角形のそれぞれの属性を継承します。
しかし、どれ一つ取っても最初の円、四角形と同じものは有りません。

このブレンドオブジェクトを「オブジェクト→分散・拡張」し 「オブジェクト→グループ解除」をすると、一つ一つ独立したオブジェクトに なります。

この状態で、最初の「編集→選択→同一のペイント設定」をしても選択されるのは その一つのオブジェクトだけです。
Deleteキーを押しても、消去されるのはその一つだけです。

性」は、まさに文字通り遺伝物質の「ブレンド」を行っているのです。

■ 性は何故あるか、取り合えず完了

いやー、驚きました。全ては「ウイルス対策」だったんですね。

男の子が渋谷あたりで軟派を張るのも、女の子が電車の中でスッピンから、全部 出来あがるまでの化粧をするのも、すべて「ウイルス対策」だったんです…。
と、こう言う短絡的(機械論的)で、味噌糞一緒な論法をきちんと戒めているのも このシリーズ最初に紹介した「オスとメス=性の不思議」と言う本です。

シリーズの最初に、「ここで書いたことは、殆どこの本の受け売りだし、そもそもこの「講釈」は、この本の紹介の為に書いている」と述べました。
「性の本質は、遺伝物質の混ぜ合わせで有り、それはウイルス等パラサイト対策だ」 と言うこの「ホヤ……、」シリーズの内容は、この本の核心部分です。
核心では有るけれども、しかしホンの一部です。
興味深いトピックスは他に幾つも有ります。

例えば、
「性の本質」が遺伝物質の混ぜ合わせ、だとして、何故「オス」、「メス」二つの性が有るのか? 「混ぜ合わせ」だけなら別に「性」が違わなくても、自分以外の個体ならどれでも良いはずです。

逆に、何故「オス」、「メス」の二種類しか無いのか。
二種類だと、たまたま出会った相手とのペアリング可能性は50%ですが、若し 100種類の性が有って、自分と同じパターン以外なら、どれでもペアリング出来るとすれば、可能性は99%になります。

そもそも「オス」、「メス」と言うのは、なにが違って何処がどうだから「オス」で有り「メス」なのでしょう。
又、一旦オス、メスに別れてからは、お互いに協力し合う関係ばかりでなく、時には全く相反するような行動もしてしまう。
その典型例の一つがが、「オスによる子殺し」ですが、何故こんなことをするのか?

何故ゾウアザラシのオスは、メスの8倍も大きいのか?
人間のオスはメスに比べ1.03から1.3倍くらい大きいそうですが、それはどう言う意味が有るのか? 等など、

取り合えずここで締めますが、又機会が有ったら上記のトピックスについても紹介してみたいと思います。

なお、ここで余計なことですが少し注意しておくことが有ります。
ここで紹介した「オスとメス 性の不思議」の著者は「長谷川真理子」と言う女性学者です。ここで紹介したように、この人は素晴らしい。

同じ進化生物学、特に性についての著作を持つ「竹内 〇〇子」と言う女性学者(?)がいます。
この人の著作は、殆ど科学の名に値しないと、私は考えています。

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